TIFF vs DNG vs CR2 — カメラの業務用フォーマットを比較する
プロ写真の現像 / 印刷入稿 / 長期保存 で TIFF / DNG / メーカー RAW (CR2/NEF/ARW) のどれを採用するかを、可逆性 / メーカー依存 / 編集ソフト対応 / アーカイブ性 で比較します。
どの軸で選ぶか — カメラ業務フォーマットの判断軸
カメラ業務で扱うファイル形式は「画質が良い順」では選びません。可逆性 (RAW 性) はセンサー出力をどこまで保持するかで、後からホワイトバランスや露出を破綻なく調整できるかを決めます。メーカー依存 は、撮影機種が変わったときや、現像ソフトが将来も供給されるかという長期リスクに直結します。編集ソフト対応 は、Lightroom / Capture One / RawTherapee / メーカー純正ソフト (DPP / Capture NX-D など) のどれで開けるかという足元の現実問題。アーカイブ性 は 10 年後・20 年後にそのファイルが開けるかという話で、業務写真や歴史資料では最重要になります。
TIFF / DNG / CR2 はいずれも TIFF (Tagged Image File Format) を構造的なベース にしていますが、想定用途と「中身が現像済みか / センサー生データか」が違うので、混同するとワークフローが破綻します。本稿では Canon の CR2 を代表例にしますが、Nikon の NEF / Sony の ARW / Fujifilm の RAF も「メーカー固有 RAW」というポジションは同じです。
TIFF / DNG / CR2 の比較
| 項目 | TIFF | DNG | CR2 |
|---|---|---|---|
| 構造ベース | TIFF (本家) | TIFF を RAW 用に拡張 | TIFF 派生 |
| 中身 | 現像済み画像 (ピクセル) | センサー生データ + メタ | センサー生データ + メーカー独自タグ |
| 開発元・年 | Aldus, 1986 | Adobe, 2004 | Canon, 2004 |
| メーカー依存 | なし | なし (Adobe 公開仕様) | あり (Canon) |
| 標準現像ソフト | Photoshop / 大半の DTP | Lightroom / Camera Raw / RawTherapee | Canon DPP / Lightroom (機種次第) |
| 圧縮 | 無圧縮 / LZW / Deflate / JPEG | 可逆圧縮 (推奨) | Canon 独自可逆圧縮 |
| 典型ファイルサイズ (24MP) | 70-150 MB (16-bit 無圧縮) | 25-35 MB | 25-35 MB |
| 主用途 | 印刷入稿 / アーカイブ / DTP | 長期アーカイブ / 編集ソフト間共有 | 撮影直後の現像 |
| メタデータ豊富さ | EXIF / IPTC / XMP | EXIF + Adobe 独自 + 元 RAW 埋め込み可 | EXIF + Canon Maker Notes |
TIFF は 1986 年策定の汎用画像コンテナで、16-bit 階調 / アルファチャネル / 複数ページ / 各種カラープロファイル (sRGB / Adobe RGB / ProPhoto RGB / CMYK) を扱えます。中身は 既に現像されたピクセル で、RAW のような後からの大幅調整は前提にしていません。DNG (Digital Negative) は Adobe が 2004 年に TIFF をベースとして「メーカー横断の RAW 標準」として設計したフォーマットで、センサーの生データに加え、ホワイトバランス / レンズ補正データ / カラープロファイルを含みます。CR2 は Canon が 2004 年に TIFF 派生として作った独自 RAW で、Canon Maker Notes に独自タグを持ち、Canon DPP が前提です。新機種は CR3 (構造が CR2 と非互換) に移行しており、CR2 自体は徐々に過去のフォーマット化しています。
ユースケース別の推奨
撮影直後の現像ワークフロー: メーカー RAW (CR2 / NEF / ARW / RAF) のまま。メーカー独自の WB アルゴリズム / レンズ補正 / フィルム調プロファイル (Fujifilm Film Simulation など) を最大限活かせるのは純正ソフトか、メーカーとライセンス契約しているサードパーティ (Capture One の Fujifilm 対応など) です。
長期アーカイブ (10 年後も開きたい): DNG。Adobe が仕様を公開しており、Lightroom / Camera Raw / RawTherapee / darktable など複数の独立した実装で読めます。Adobe DNG Converter で CR2 → DNG 変換するときは “Embed Original Raw File” オプションを ON にすると元の CR2 も DNG 内に格納され、可逆性を保てます (ファイルサイズは倍増)。
印刷入稿 / 完成画像の配布: TIFF。16-bit / Adobe RGB / ICC プロファイル付きで現像済みのピクセルを書き出します。CMYK 変換が必要な印刷会社も TIFF なら受け付けます。圧縮は LZW か Deflate を選ぶ (JPEG 圧縮を選ぶと非可逆になり、印刷時にバンディングが出る可能性)。
編集ソフト間のやり取り (Lightroom → Capture One など): TIFF (16-bit、可逆圧縮) が無難。DNG は受け側のソフトが対応していれば最良ですが、サードパーティの対応度はバラつきがあります。
Web 公開・SNS 投稿: いずれの形式からも JPG / PNG / WebP に書き出してから。RAW や TIFF を直接 SNS にアップロードしても、プラットフォーム側で JPG に再エンコードされるので意味がありません。
ブラウザだけで RAW / TIFF を扱う
メーカー RAW を素早く JPG / PNG に変換したいときは raw-convert で CR2 / NEF / ARW / DNG / RAF をブラウザ内で変換できます。サムネイル抽出ベースなので現像エンジン相当の細かい調整はできませんが、「クライアントに納品前のプレビューを 1 枚送りたい」用途には充分です。TIFF は tiff-convert で JPG / PNG / WebP に変換でき、複数ページ TIFF (医療画像 / FAX 由来 / DTP の見開き) にも対応します。汎用画像の相互変換は image-convert を組み合わせます。
落とし穴は 4 つ。(1) RAW を後で開けなくなる: Canon DPP がメーカーサポート終了したり、古い CR2 を新 DPP が読まない事例があります。重要なカットは撮影時点で DNG に変換して二重保管するのが安全。(2) DNG 変換でメーカー独自情報が落ちる: Adobe DNG Converter は仕様の公開部分しか保持しないので、メーカー未公開のタグ (一部の AF ポイント情報など) は捨てる場合があります。“Embed Original Raw” で原本ごと保管しておけば事故回避できます。(3) TIFF の中の JPEG 圧縮は非可逆: 「TIFF だから可逆」ではなく圧縮方式次第。LZW / Deflate を選ぶ。(4) EXIF / GPS / シリアル番号は全形式に残る: SNS 公開やクライアント送付の前に image-exif-strip で除去する習慣を。実装は GitHub で公開しており、撮影データがどこにも送信されないことを DevTools の Network タブで確認できます。